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Selfishly

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Pa 10 「受験勉強」

 
スローライフ

       ~ Pa10「 受験勉強 」
             H18,1,1,20:30


エドワードが、ロイの家で家政夫をするようになって、
数週間が過ぎていった。
季節は そろそろ、暑さが増してくる時期に入り、
本格的な夏を控えて、街も人も準備をしている。

エドワードがロイの家にいるようになって
少しづつ変わっていっている事は、
ロイの遅刻がなくなった事と、
ロイの勤務態度が すこぶる良くなった事。
 (これには、ホークアイ中佐が大喜びだ)

そして、家は綺麗になり手入れが行き届いて
住む環境としては、大変 居心地がよくなっている事。
そして、軍のメンバーが良く出入りするようになった事。
エドワードの手料理食べたさに、ロイと一緒に
時には ロイの居ないときにも 皆が交代で顔を出している。

まだ、エドがセントラルに帰っている事をおおっぴらには
していないので、
こうして、軍のメンバーが来てくれる事は
エドワードにとっても 話し相手が出来て嬉しいようだ。
まぁ、ロイは やや不満のようだが
実際に自分が余りエドワードに構ってやれる時間が作れないので
一人家で待っているエドワードの事を考えると
皆が顔を出してやっている事はエドワードの為に
我慢するべきだと思っている。
・・・本当は、自分が1番構ってやりたいとは思ってても。

そして、ロイの笑顔が良く見られるようになった事。

それらが、エドワードが来てから変わっていき、増えてきた事柄。

当のエドワードはと言えば、
毎日、変わらずロイの面倒をみ、
大学受験の勉強に頑張っている。


車が 門を入り家の玄関前で停まった。
玄関までの送迎が行われるようになったのも、
エドワードが来てから変わった事の1つだ。

「お帰りー。」
玄関の扉を明けて、降りてきた二人を迎える。
「ああ、ただいま。
  何か変わった事は?」
顔を見せたエドワードに、嬉しそうな笑顔を見せて
挨拶を返してくる。

「大丈夫、何もないよ。」
帰ってきた時の恒例になっている確認を済ませ、
ロイがハボックに合図し、入ってくる。

「よぉ、大将。」
「いつも、ご苦労様。
 今日も寄っていく?」
これも、ここ最近の挨拶をする。
「そうしたいのは山々なんだけど、
 今日は当直なんで戻らないとな。」
残念そうにエドワードに返事をし、
ゴソゴソと車の中から、荷物を運び出す。

「大将、悪い。
 これちょっと運ぶのを手伝ってくれるか?」
「・・・まさか・・・。」
ハボックの呼びかけに、エドワードが渋い顔をする。
そんなエドワードに、ハボックが苦笑を浮かべて荷物を手渡す。

「ほいよ、まだあるから先に中に運んでくれ。」
「・・・わかった。」
不承不承受け取りながら、先に玄関に運び込む。
数回受け渡しをしながら運び込むと、
広い玄関ホールに、小さな荷物の小山が出来る。
最後の荷物を受け取り、それらを眺めて はぁ~とばかり
ため息をつくエドワードに、
「まぁ、許してやれよ。
 中将の今のストレス解消の1つなんだから。

 本当は、大将にもっと時間をかけてやりたいんだろうけど、
 なかなか時間が作れないだろ?
 だから、その分って事なんだよ。」
上司を庇うハボックに文句を言っても申し訳ないと
思い直し、
「少佐もごめんな、毎回。」
と礼を伝える。
「いや、俺は勤務時間内だし、
 それに、楽しそうにしている中将を見れるのも
 面白いぜ。
 本当に 子供みたいに、あれこれ悩んでウロウロしてる姿なんて
 めったに拝めないしな。」
その姿を思い出しているのか、クククッと楽しそうに笑っている。
「おっと、時間だ。
 じゃぁ、俺は戻るから中将に伝えといてくれ。

 あんまり、中将を怒るなよ~。」
冗談めかしてエドワードに そう言うと、
車に乗り込んで、戻っていった。

玄関ホールに置かれた荷物を確認し、
ロイが居るだろうリビングに入っていく。
入ってきたエドワードに関心なさそうな様子で
持ち帰った資料を読んでいるロイに

「で、今度は?」
とエドワードから話しかけてやる。
そうすると、話しかけられるのを待っていたように
ロイが買い物の言い訳を並べる。
「いや、そろそろ暑くなってきただろう?
 衣替えの時期だと思っててね。
 ちょうど、自分のを買うついでに寄ってみたら、
 向こうから、エドワードにも似合いの物が
 入荷されているからどうかって見せられてね。」
ニコニコと悪意の無い笑顔で話すロイだが、
エドワードは、無視して買い物の内容を追求する。

「で、あんたの分って どれ位なんだ?」
エドワードの問いかけに、数瞬の間が空いて、
「1,2着・・・、いや もう少し有ったかな?」
さりげなくエドワードから顔をそらして返事をする。
「ふ~ん、1,2着。
 じゃぁ、それ以外は 全~部!俺専用なわけだ。

 ロイ、約束は?」
ソファーにも座らずに仁王立ちになってロイに話しかけている姿の前で
ロイが小さくなって、居心地悪そうに身じろぐ。
エドワードは、ロイの家で家政夫を引き受ける時の約束として、
やたらとエドワードに物を買い与えるロイに、
エドワードの許可なくエドワード専用の物を買わない事を
約束させていた。
にも、関わらず この家主は何かと理由をつけては
せっせと買っては持って帰ってくる。

「・・・制服・・・。」
「はっ? 何て?」
ロイが何か、小さくつぶやいたのだが聞き取れなくて
再度 聞きなおしてみる。

「そうなんだよ、制服の支給だ。
 雇い主としては、当然だろ?
 衣替えの時期に、新しい制服を支給するのは。」
さも、良い事を思いついたとばかりに顔を上げ、
どうだ!とばかりにエドワードに答える。

ロイの態度に、ガックリと肩を落とす。
「・・・制服ね・・・。
 
 ロイ、今回までは許すけど
 今度買ってきたら、店に戻すからな。」
開き直ったロイに何を言っても無駄と
少しお灸をすえて、この話を追求するのをあきらめる。
「・・・わかった。」
ロイも 神妙に返事をするが、果たして いつまで保つのやら。

疲れて帰ってきたロイに、いつまでも小言を言って困らせるのは
エドワードの本意ではないので、
気分を変えてロイの世話を焼くことにする。
「で、今日は食事を先にする?」

「あぁ、そうしてもらえると嬉しいな。」
エドワードの意識の矛先が変わったのを感じて、
ほっとしながらエドワードに返事をする。

エドワードは、ロイが勤務中に忙しすぎて
食事をする時間が取れない事が 多々ある事を知ってからは
出来るだけ食事を先に取れるようにしていた。

「今日は、何かな?」
楽しみにしていた事がわかる期待に満ちた声音で
毎日、そう聞いてくるロイの態度は
エドワードにとっても、料理を作る励みになる。
おかげで、家には料理の本が増えていく事になり、
ここに来てから、ますます料理の腕が上がっている。

「今日は、冷製のさっぱり系でまとめてみた。
 あんた最近、暑さで食欲落ちてるだろ?
 食べやすくて、滋養が高い物の方が良さそうだから。」
キッチンに席を移して、二人で食事を取る。
エドワードの狙いどうり、豆と栄養価を考えて山芋で作った
良く冷やしておいたビシソワーズを美味しそうに飲み干し、
新鮮でしゃきしゃきの野菜の上に、軽く炙った薄切りの肉を
温かい内に置いて食べるサラダや
焼いた魚をさっと揚げて、酸味を控えたマリネにして
柑橘系の香りの良いものをさっと絞って、
更に食欲を増すように工夫をする。

どれも、美味しそうに食べるロイの表情に
作ったエドワードも、表情がほころぶ。
デザートには、野菜で作ったコンソメのゼリーで
甘みを出すのに少量の蜂蜜を加えて作ってある。

「どれも、美味しいが このゼリーは絶品だな。」
普段、余り甘いものをとらないロイが
珍しくデザートを完食して、感心したように褒める。

「良かった。
 疲れた時には甘いものがいいんだけど、
 あんた あんまり甘いもの食べないだろ?
 これ位なら、食べれるかと思って。」

「あぁ、これなら 満腹でも食べたくなるな。」
満足、と顔に書いたような表情でロイがうなずく。

「これと、あと レアチーズも作ってあるんで、
 明日、軍の皆にも持っていってやってくれよな。
 皆も 夏バテとかしないようにしとかないとな。」

片づけを始めて食後のコーヒーの準備をする。
「わかった、皆喜ぶよ。」
お世辞でもなんでもなく、
こうしてエドワードが軍のメンバーに差し入れをしてくれるのを
皆が 心待ちにしている。

リビングでエドワードが淹れてくれたコーヒーを
飲みながらくつろぐ。
今日のように いつもより早く帰れた時には
食後に ゆっくりした時間を過ごし、
たわいない日常の話を楽しむ時間がロイの楽しみの1つだ。

「で、勉強の方ははかどっているかな?
 まぁ、君なら心配はないとは思うが。」

「う~ん、まぁ専門の事や理数関係は問題ないんだけど、
 やっぱり、文学の方はあんまり進まないんだよな。」

受験の内容も、エドワードにとっては そう難しい事ではないのだが、
一般教養の中の文学系は、今まで取り組んできた事がなかっただけ
理解ができない事が多い。
難しい練成陣を読み解く能力と、文章から情緒を読み取るのとは
どうやら違う能力が必要のようで、
問題の文章の意図の意味から解らない事があり、
困難な状況に直面する事もしばしばだった。
1度、独学での学習に無理を感じたエドワードが
ロイに問題の質問の意図を聞いてみた事があったが、
純文学の読み取りが、戦略・策謀、果てには
本人の人格にまで疑いを持つ返答が返ってきた時に、
エドワードはロイに教わるのをあきらめる事にした。
軍のメンバーにも教わろうとしたのだが、
ロイとどっこいどっこいの思考回路を持つメンバーでは
エドワードに納得できる答えをもらうのは難しく、
唯一、期待が出来るのではと思っていた女性のホークアイ中尉が
誰よりも、そういう方面への関心と興味が薄いと判明し、
エドワードの希が断ち切られた。

ロイ自身、その方面では全くエドワードの助けにならない事が
よく解ったので、申し訳ないと思いつつ
解決策を考えている。

「しかし、その1項目位は点数を落としたとしても
 他で十分挽回できるんだから、
 そう気にする事もないだろう?」

「いや、そうも行かないんだよな。
 普通の入学なら問題ないだろうけど、
 奨学金入学、目指すとなると
 上位で試験に通らなきゃいけないしな。」

「エドワード、そう無理して奨学金は狙わなくとも
 入学金位は 研究費用で十分支払えるだろ?
 研究費用に手をつけるのが嫌のようなら、
 私が貸すという手もあるし。」

普通の17歳とは違い、国家錬金術師のエドワードには
潤沢な研究費用が降りている。
国家錬金術師を辞めない事を決めた今、
特にお金を気にする必要もない。
本来、辞めないなら ロイの家で家政夫を続ける必要性も
全くないわけだが・・・。

「いや、研究費用に手をつけるのは
 したくないんだ。
 今年度、奨学金枠に入れなかったら
 次回に入学伸ばすつもりだし。」

きっぱりと言い切るエドワードの顔を
ロイは感慨深げに見る。

生身の身体を取り戻す旅をしていた時には
自分達の生活も含め、研究費用から使っていた。
それでも、他の錬金術師達のように私腹を肥やしたり、
無駄や贅沢を楽しんだりはしない、慎ましやかな使い方では
あったが。

あの頃は、叶うかどうかもわからない願いを追いかけ、
使えるものは何を使ってでもと
わらにも縋る思いがあったからだろうが、
もともと純粋で、真っ直ぐな気質のエドワードは、
今は 自分で出来る事は自分で努力をする事で
余計に公用の金を使うような事はしなくなった。
多くを旅し、多くを見てきた今は
公用の金自体が、決して湧いて出てきた物ではない事を
考えての事だろう。
悲願を叶えて自分の心にゆとりが出来たせいか、
エドワードは 周囲を見渡し気を配る事が出来るようになっている。

「そうか・・。
 なら、家庭教師をつけるというのは どうかな?」
エドワードの意志を尊重して、希望を叶える方法を考えてみる。
「うん、そうなんだよな~。
 独学では無理があるのがわかったんで、
 俺も それを考えてたんだ。」

「そうか、なら 良い家庭教師を探してみよう。」
何か 自分でも助けてやれる事が出来て嬉しくなりながら
早速、手助けをしようとする。

「あのさ・・・、家庭教師なんだけど、
 ちょうどいい奴が居るんだよな。
 で、あんたに許可して貰えるなら、
 ここに呼びたいんだけど。」

どうかな?と目でロイを伺ってくる。
ロイは 意外なエドワードの言葉に聞き返してみる。
「そんな人材が?
 もちろん、君が教わりたい人間から教わる方が
 良いとは思うが・・・、一体?」

「うん、あのさ
 アルの奴を呼ぼうかと思うんだよ。
 あいつ俺と違って、昔から そういう方面得意だったし、
 あいつに教わるならタダだしな。」

弟の事を口にする時は、いつも嬉しそうなエドワードが
今回も 明るい表情で話している。

そんなエドワードを見ているロイは、逆に胸中に
陰が差し込んで、顔から表情が消えてしまう。

『アルフォンス君か・・・。
 確かに、エドワードに勝るとも劣らない彼の事だ。
 エドワードが言うとうり適任だろうが・・・。』

鎧姿の時に知っていた彼は、兄には似ずに控えめで
礼儀正しい、好感の持てる少年だった。
だから、ロイは 自分が何故、エドワードの提案に即答して
やらずに、考え込んでしまうのかがわからない。
つい最近まで、ずっと傍に居たもの同士だったのが、
今は、離れているのだから エドワードが逢いたいと思っていても
当たり前だ。
そこまで考えると、また 先ほどより胸の陰が濃くなったような気がする。

「ダメかな・・・。」
ロイが黙り込んでしまったので、心配気な様子浮かべる。
「ここに呼ぶのが迷惑なようなら、アルには近くで宿をとらせて
 俺が そこで教わるようにするし。
 その間は、家を不在にさせるけど 受験までの1週間位で
 大丈夫だと思うんだ。
 家の事には手を抜かないようにするんで。」
エドワードが、申し訳なさそうな表情をして
言葉を続けてくるのを見て、
ロイは 自分が 彼を困らせている事に気づき
急いで返事を返す。

「いや、そんな事はないよ。
 アルフォンス君なら 身元も保証されていて安心だし、
 部屋も空いてるんだから、わざわざ宿を取る必要はないよ。
 ここで、教えてもらうといい。

 それに、ここなら軍のメンバーにも
 会えるしね。」
そう慌てて許可をしてやる、作った笑顔とともに。

「本当にいいのか・・・?
 迷惑かけてるんじゃ・・。」

「もちろん、構わないよ。
 全然、迷惑な事はないし、私も久しぶりに逢えるんで
 楽しみな位だ。」
人の心の動きに聡いエドワードに気を使わせないように
上手く表情と感情をコントロールする。
こういう事は、経験上 得意な事だ。

しばらく、そんなロイをじっと見ていたが
納得したのか、ホッと肩を落として
笑顔を浮かべて、ロイに礼を伝えてくるエドワードを見れて
ロイも自分が 失敗を冒さないで済んだ事に感謝した。


「で、ロイに許可を貰えたんで
 こっちで教える時間を作ってくれるか?」
早速と、アルフォンスに連絡を取っているエドワードを
ソファーから、ぼんやりと眺めている。
( どうやら、私が贈った中でも1番のプレゼントだったようだな。)
少々、ひねくれた考えが過ぎっていく。

「おう、わかった!
 じゃあ、列車の時間を連絡くれたら迎えに行くな。
 わかった、じゃあな。」
嬉しそうな会話が1段落したのか、
ご機嫌にソファーに戻って座りなおす。

「ロイ、ありがとうな。
 アルの奴も、よくお礼を伝えておいてくれっってさ。」

何にせよ、彼が楽しそうにしているのは
自分にとっても嬉しいことには変わりない。
「そうか、相変わらず 礼儀正しい子だな。
 で、いつ来れるのかね?」

「うん、受験日まで日もないから
 明日、早速きてくれるってさ。」
久しぶりに会える事に期待が膨らんでいるのだろう、
細めて笑う金瞳が、クルクルと変わる表情を閃かせている。

「明日とは早いな・・・。
 さすが、行動の早いエルリック兄弟の片割れ。」
あきれ半分、驚き半分で 感心してやる。

「そうだろー、時は金なりだしな。」
誇らしげにうなずきながらそう言うエドワードの言葉に

『その言葉を今の状況で使うのは 用法として違う気がする・・。

 やはり、アルフォンス君に来て貰う事にして
 正解だな。』

今から教える事になるアルフォンスに
やや同情するロイであった。



[ あとがき ]

新年、初アップです。
バタバタしている年末年始がひと段落。
久しぶりに更新できて嬉しいです。
本年も、どうか宜しくお付き合い下さいませ。



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